東京に住む友人と東京に住む友人のバンドのメンバーとの会食から一足先に抜け出した彼
まさしく、抜け出した安堵感からか一気に酔いが回って廃人のようになっていた
彼はステージにいた
彼には店を出てからステージが始まるまでの記憶が一切ない
前日の出来事や当日会食をした店を出るまでの事はハッキリと覚えていたが
その後の記憶は一切なかった
ただ本番が始まって数分間の出来事だけは鮮明に覚えていた
会場には彼が持ち込んだPUFFYの曲が流れていた
その曲がやんで客席の灯りが落ちる
いよいよ本番が始まる
彼の衣装はPUFFYの二人の顔がプリントされたTシャツ
決して街中では着られない代物だ
PUFFYのTシャツにPUFFYのSE
「PUFFY大好き F.A.D!」
と叫んで始めるつもりだった
おもしろいかおもしろくないかは別にして それで自身を奮い起こすつもりだった
しかし彼は酔っていた
そんな事は完全に忘れていた
彼は何も思い付かなかった
何かを言うつもりだった事は覚えていたが、それが何だったかは思い出せなかった
それまでポワンとしていた頭が徐々に覚醒し呼吸が荒くなっていく
彼は何も思い出せなかったし別の何かも思い付かなかった
脈は早まり額には汗が滲みだしていた
「イェイ」
突然彼は叫んだ
叫んでしまった
決して構えた言い方ではない
つい口に出てしまった言い方だった
静まりかえる客席
いつもなら数人の友人が「イェイ」なり なんなりを返してくれる場面
しかし一切の声がない
狼狽える彼
始めの経験
一切の予想すらしていない状況
呼吸は益々荒く全身に汗が吹き出した
震える声で彼はもう一度叫んだ
「イェ~ッ」
なお一層静まりかえる客席
水を打ったように…正にそんな感じだった
もう一度…と彼は思ったがもぅ声がでなかった
そして段々と意識が薄らいでいったのだった
彼は敗れた
酒と緊張と、それに伴う冷ややかな視線に敗れ去った
もう何がどうなったのか、夢のようで、そして地獄のようなステージは終わった
そしてその後1年の間、彼をライブハウスで見る事は
なかった
-完-